西伊豆エリアには、海と山の恵みが豊かにあります。地元の食材を活かした料理や文化も、これまで大切に受け継がれてきました。
その一方で、まだ十分に活かしきれていない資源や、現地だからこそ味わえる体験には、伸びしろも残されています。その可能性に向き合い、ひとつの形にしようとしている人がいます。
「殺して終わり」にしたくなかった
関隼人さんは、松崎町で罠猟を行うジビエの生産者です。扱うのは、町内で捕獲されたシカ、イノシシ、アナグマ。捕獲から解体、精肉、販売までを一貫して行っています。
もともと狩猟をやっていた関さんですが、ある思いがずっと引っかかっていたそうです。
「獲ったあと、そのまま埋めるのは違うなって思った」
命を奪う以上、それをきちんと活かしたい。そう考え、自分で捌き、自分で食べるようになりました。やがて周囲から「それ、売れないの?」という声が上がるようになります。
「松崎町にはジビエを生業にしている人がいなかったんですよ。味はすごくいいのに、活用されていなかった。なので、町の新たな名産品を目指してやりはじめました。松崎に行けば、美味しいシカやイノシシが食べられるぞって言われるようにしたいですね」


なぜ松崎町でやるのか
関さんがこの地を選んだ理由はシンプル。
「この町が好きだから」
もともとはカヤックを楽しむために通っていた松崎町。しかし、何度も訪れるうちに、この土地の特異性に気づきます。
「移住にあたって、いろいろな場所を見てきたんですけど、このエリアは勾配が急で、河口から渓流魚が生息する上流域までの距離がすごくコンパクト。車で15分ほどあれば行けてしまうんです。生活圏で海・川・山、すべて体験できる。そこが、この土地の大きな魅力だと思っています」
だからこそ、この場所でやる意味がある——関さんはそう語ります。
「昨日獲れた肉」が食べられる価値
関さんのジビエの大きな特徴は、その鮮度です。捕獲した個体は、自ら解体し、最短で翌日には飲食店へ。冷凍を挟まず、フレッシュな状態で肉が提供されます。
「もちろん冷凍するメリットもあります。でも、一度も冷凍していない肉って、やっぱり違うんですよ」
食感や水の抜け方など。その差は、食べればすぐに分かるといいます。
例えば、前日に獲れたシカ肉を、そのまましゃぶしゃぶで出す。そんな提供ができるのは、生産と消費が近いからこそ。それは単なる食材ではなく、「ここに来る理由」そのものになり得ると関さんは考えています。




松崎町のジビエが持つポテンシャル
伊豆の天城は、岐阜県の郡上・兵庫県の丹波篠山と並ぶ、イノシシの日本三大産地のひとつ。松崎町周辺は、天城山系の西側に位置しています。ここで獲れるイノシシは自然薯などを食べて育つため、肉は柔らかく、脂は軽く、さらりとしています。シカは急斜面の地形の中で育つため、筋肉質な個体が多いと考えられ、フレンチのシェフからはエイジング後の質の高さも評価されています。
そして、最近人気が高いのはアナグマ。その特徴は大量の脂身で、その脂が驚くほど良質で美味しいそうです。
「一番うまいジビエにアナグマをあげる料理人も多いですね。うちが卸しているところだと、ベーコンにしてるところもあるんですよ」
高く評価される食材でもあります。

松崎町の名前で、価値をつくる
今、松崎町には新しい名産品が多くはありません。だからこそ、自分の取り組みがそのひとつになればと関さんは考えています。
「やっぱり、松崎町が好きで住んでいるので。松崎町といえば、あの肉が美味しいよねって言われるようになったら嬉しいですよね」
もちろん、西伊豆エリア全体で盛り上がることは大切。ただその中で、「松崎町」という名前で価値をつくりたいという思いを持って活動しています。
食を、体験へ
関さんの取り組みは、食にとどまりません。解体後のトリミング体験や、罠の見学、狩猟技術の紹介など、希望に応じて体験プログラムを組むこともできます。実際に、横浜から1泊2日で訪れる人もいるそうです。食べるだけでなく、その背景を知ることで、価値はより深くなります。

地のものが、地で味わえる町へ
関さんが描く理想は明確です。
「地のものが、ちゃんとダイレクトに届く町になればいいなって。そういうところにしていきたいですよね」
水揚げされた魚や山で獲れた肉がそのまま飲食店に入り、食事として提供される。その流れが自然に生まれれば、人は「その土地のものを味わいに来る」ようになるはずです。



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