松崎町にしかない柑橘があります。
栄久ぽんかんです。
特有の芳香、濃厚な甘み、そして一粒一粒の果肉がぎゅっと詰まった食感。松崎町認定ブランドであり、しずおか食セレクションにも認定されたこの品種は、知る人ぞ知る“幻のぽんかん”でもあります。
その理由は、味だけではありません。今、農家として栽培しているのはわずか2軒の農園。もしつくる人がいなくなれば、この品種そのものが途絶えてしまう可能性があるのです。
そんな栄久ぽんかんを守り、次へとつなごうとしているのが、丸高農園四代目の髙橋幸村さんです。
地域に柑橘を広げた農園
丸高農園の歴史は、80年以上前にさかのぼります。創業者は、貧しい漁村地域からの脱却の一手として、この地域に柑橘栽培を広めようとしました。
西伊豆は、温暖な気候と水はけの良い土壌に恵まれた土地です。その環境に着目し、地域に苗木を配りながら、柑橘産地としての基盤を築いていきました。丸高農園には、そうした歴史があります。
高橋さんが受け継いでいるのは、単なる農園ではありません。先人たちが整えてきた石垣積みの段々畑、排水設備、栽培環境、そして地域の特産品としての柑橘の価値そのものです。




栄久ぽんかんを残す理由
髙橋さんが栄久ぽんかんをつくり続ける理由は、はっきりしています。
ひとつは、種を残すため。栄久ぽんかんは未登録品種であり、つくる人がいなくなれば、その系統は失われかねません。
もうひとつは、地域の特産品を守るため。柑橘農家の高齢化が進み、果樹部会の担い手も減るなかで、「ぽんかんの名産地」としての名前を守るには、つくり続けるしかない。高橋さんはそう考えています。
栄久ぽんかんは、自分の農園だけのものではない。この町にしかないオリジナル品種であり、地域ぐるみで活かせる「起爆剤」になり得る存在だと捉えています。

守るだけでは、続かない
ただ、髙橋さんの視線は「保存」だけに向いているわけではありません。守るだけでは、残らない。だからこそ、広げる必要があると考え、新たな商品の開発にも力を注いでいます。
丸高農園では、栄久ぽんかんを使ったストレートジュースを開発しました。その味わいを凝縮した商品は、ふじのくに新商品セレクションで金賞を受賞。さらに、栄久ぽんかんを使ったクラフトビールも展開しています。
果実として売るだけでは届かない人にも、ジュースやビールなら届くかもしれない。
飲食店や宿泊施設、ご当地メニュー、体験プログラムにも展開できるかもしれない。
栄久ぽんかんを“品種”として守るだけでなく、「地域の価値」として広げていく。その発想に、髙橋さんの今の挑戦があります。


つくるだけで終わらせない
丸高農園では、ぽんかん3品種をはじめ、ニューサマーオレンジ、甘夏みかん、レモン、ライムなども栽培しています。農薬不使用を基本とし、必要最低限の減農薬、ノーワックス、防腐剤不使用にこだわるなど、安全性にも配慮しています。その多品目栽培や加工品開発も、すべては同じ方向を向いています。
この地域の風土や文化を、どう次の時代につないでいくか。
高橋さんは、西伊豆エリアを「可能性を秘めた地域」だと捉えています。その文化や風土を大切に継承しながら、今の時代に求められる形へと変えていく。第一次産業を軸に、自分にできること、すべきことを見極めていきたいと語ります。



