自分で食べるものは、自分でつくる——有機農家・鈴木茂孝さんが実践する「農ある暮らし」

松崎町で農業を営む鈴木茂孝さんの出発点は、とてもシンプルです。
「自分で食べるものは、自分で作りたい」
その思いから、有機・無農薬での農業が始まりました。大量生産ではなく、自給をベースにした小規模な農業。いわゆる“効率”とは少し違う方向にある営みですが、そこには暮らしそのものを支える強さがあります。

暮らしの軸は「米」

とんび農園の主軸は米づくりです。白米だけでなく、黒米・赤米・緑米といった古代米も栽培し、せんべいや揚げ餅といった加工品にも展開しています。
「やっぱり自分が食べるものだから。まずは米をやらないとっていうのがあって」
自分でつくった米があることで、「1年間これがあれば大丈夫」という安心感が生まれます。その安心が、農業を続ける理由にもなっています。

松崎町の環境も、米づくりに適しています。山が近く寒暖差があるため味が良くなりやすく、耕地面積が小さい分、一つひとつを丁寧に管理できます。その結果、有機栽培とも相性のよい土地だといいます。

「普通にならない」ための選択

もうひとつの柱がレモングラスです。きっかけは、香りの良さと、動物被害の少なさでした。そこから栽培を始め、現在は蒸留体験や精油、スプレー、ハーブティーなどへと展開しています。ただ、特徴的なのはそのやり方です。

「いろいろやると、普通のハーブ屋になっちゃうんですよ」

だからこそ、レモングラス一本に絞ります。一点突破で「ここにしかない価値」をつくるための選択です。実際、その戦略は結果にもつながり、東京や山梨、名古屋など遠方からの問い合わせが増えています。

体験は「本物」から始まる

レモングラスの蒸留体験も特徴的です。すでに用意された葉を使うのではなく、葉を刈るところから始まり、香りを確かめ、自分の手で蒸留し、自分だけの精油を持ち帰ります。

「製品」ではなく、「生産」から関わる体験。その違いが、訪れる人にとっての価値になっています。

人を育てる農業

鈴木さんは「松崎稲作塾」を運営し、農業体験や移住希望者の受け入れも行っています。実際に、この場所をきっかけに移住した人もいます。農業を教えるだけでなく、「農のある暮らし」を伝える場にもなっています。

「スモールビジネスがあちこちにあって、あっちも行きたい、こっちも行きたいってなる地域が面白いと思うんですよ」

ひとつの大きな施設ではなく、小さな営みが点在する地域。それぞれが魅力を持ち、回遊する理由になります。鈴木さんの活動は、その一つを担っています。

不便だからこそ、残っているもの

西伊豆エリアは決してアクセスが良い場所ではありません。けれど、その不便さがあるからこそ、荒れていない自然や、人の素朴さが残っています。
「思い切って来てもらえたらいいかなと思います」
便利さではなく、体験そのものの価値で選ばれる場所。ここには、その可能性があります。

「田んぼでお笑いプロレス」。松崎町の暖かさが生み出す賑わいとともに。

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事業者紹介

伊豆松崎とんび農園
https://tonbi-nouen.com/

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