松崎町でつくられる自然薯は、手間がかかる作物として知られています。土の中でまっすぐに育てること自体が難しく、気候にも大きく左右されるため、安定して品質の高いものをつくり続けるのは簡単なことではありません。その難しさに向き合い続ける中で生まれたのが、「極濃」と名付けられた自然薯です。
田口さんにとって、その原点は子どもの頃の記憶にあります。山に入り、時間をかけて掘り出した自然薯を、家でとろろ汁にして食べる。
「あの味を、畑で再現したい」
その思いが、今の自然薯づくりの原動力になっています。
名人であっても、完成ではない
田口さんは、松崎町自然薯品評会で3年連続金賞を受賞し、「自然薯名人」の称号を得た生産者です。10年以上にわたり自然薯づくりに向き合い続け、その技術は地域でも高く評価されています。
「田口君はなんでこんなにうまくできるんだ?ってよく言われるんですけど、基本は天候任せなので、毎回試行錯誤ですよ。」
名人と呼ばれるようになっても、自然薯づくりに完成はない。そのことを、田口さん自身が一番よく知っています。

「極濃」の理由
「味が濃い」と言われることが多い——それが、「極濃」という名前の由来です。では、その濃さはどこから来るのか。その答えは、土づくりにありました。
田口さんが自然薯を育てる土に混ぜ込むのが、腐葉土や酵素など自然由来の有機物。中でも特徴的なのが、西伊豆町田子産の鰹節です。一見すると意外なこの素材が、味の決め手になっています。
「鰹節にはアミノ酸が多く含まれています。柑橘類の農家さんが、甘さを引き出すために鰹節を土に混ぜるという話を聞いたので、試してみたんですよ。そしたら、翌年、自然薯の味が全然違った。」
西伊豆田子産のかつお節を肥料として使うこの取り組みは、単なる味づくりにとどまりません。地域で生まれた資源を土に還し、微生物や生態系を活かしながら作物を育てる「循環型農業」としての意味も持っています。

思い通りにならない仕事
ただ、どれだけ工夫を重ねても、自然は思い通りにはなりません。
「雨が多すぎれば腐ったり、水を嫌って分岐して真っ直ぐな自然薯にならない。気温が25度以下にならないと成長しないようで、残暑が長引くと成長に影響が出てしまう。葉の状態ひとつとっても、少なすぎても多すぎてもいけない。ムカゴがつきすぎても栄養を取られてしまうから良くない。」
わずかな違いが、そのまま品質に影響します。気候に合わせて最善の策を講じることで、最高の質を保つための精度を上げていく。
「自然薯栽培を始めて、10年ちょっと経ってますけど、毎回試行錯誤ですよ。」
できることはすべてやる。それでも最後は、自然に委ねるしかない。田口さんがつくる自然薯には、そうした積み重ねが詰まっています。


ひとりで終わらせない
田口さんは、自然薯研究会の役員として、会のメンバーとともに自然薯の品質向上に取り組んでいます。会員は40名ほど在籍しており、講習会でより良い栽培方法を共有したり、互いの畑を見ながら改善を重ねているそうです。
「自分だけができればいい」という考えではなく、みんなで良くなっていくことが大切だと考えています。


松崎を知るきっかけとして
松崎町を知るきっかけのひとつに、この自然薯があればいい。
そうして興味を持ち、この町を訪れ、食べて、泊まってみる。
その中で、松崎という場所の良さを感じてもらえたら——
そんな思いも、この自然薯には込められています。
こうした取り組みは、農業だけで完結するものではありません。つくる人、食べる人、訪れる人がつながることで、地域の価値はより広がっていきます。田口さんが見据えているのは、「つくる」「たべる」「めぐる」がつながる西伊豆の姿です。



事業者紹介
田口自然薯ファーム
https://shop.jinenjyo.jp/

