鰹のうま味は、時間がつくる ——鰹製品製造・松田年加さんが向き合う「発酵に任せる」ものづくり

西伊豆町・田子漁港は、古くからカツオの一本釣りで栄えてきた港です。水揚げされたカツオは、鰹節や塩鰹といった加工品へと姿を変え、この地域の食文化を支えてきました。中でも塩鰹は、年末年始の飾りとしても用いられてきた伝統的な保存食です。ただの食材ではなく、暮らしや風習の中に根付いてきた存在でもあります。
そうした文化が今も残る田子で、鰹製品づくりに向き合っているのが、松田年加さんです。

漁師の家から、加工の担い手へ

松田さんの家は、もともとカツオの一本釣り漁を営んできた家系でした。屋号である「田子丸」も、かつての漁船の名前に由来しています。
時代の流れとともに漁業から加工へと軸足を移し、現在は鰹節や塩鰹といった伝統的な製品づくりを続けています。

鰹の文化が、発酵へとつながる

西伊豆町の田子では、鰹節や塩鰹といった加工文化が、古くから受け継がれてきました。水揚げされたカツオを無駄なく使い切り、長く保存し、うま味を引き出す。その知恵の積み重ねが、この土地の食文化を形づくっています。
鰹節は、燻しと乾燥を繰り返しながら、水分を抜き、うま味を凝縮させていくもの。塩鰹は、塩で保存性を高めながら、時間をかけて味をなじませていく保存食です。どちらにも共通しているのは、すぐに完成しないということ。時間をかけることで、素材の持つ力を引き出していきます。そうした考え方の延長にあるのが、発酵です。

「職人がつくるというよりも、酵母や環境がつくるものなんです。自分たちは、その手助けをしているだけで」

人がすべてをコントロールするのではなく、自然の働きに委ねる。その姿勢は、昔から続いてきた鰹の加工文化と、地続きのものです。

伝統から生まれた、新しい調味料

そうした発酵の考え方から生まれたのが、「かつお醤油」です。原料は、カツオの内臓と塩のみ。時間をかけて熟成させることで、独特のうま味を持つ天然の調味料へと変化していきます。もともとは、先代が魚醤に着目したことがきっかけでした。他地域の食文化にヒントを得ながら、長い時間をかけて試行錯誤を重ね、現在の形にたどり着いたといいます。

「少量を加えるだけで、いつもの料理がちょっと変わるんですよ」

そのまま使う醤油というよりも、鍋や餃子の種、炒め物などに加える「隠し味」。伝統的な製法から生まれた味が、現代の食卓の中で新しい役割を持ち始めています。

発酵に任せるという選択

発酵食品づくりにおいて、できることは限られています。温度や環境を整えることはできても、最終的な味わいを決めるのは、あくまで時間と微生物です。

だからこそ、急がない。無理にコントロールしない。

その代わりに、変化を見極め、最適な状態を見守る。そうした積み重ねが、田子の味をつくっています。

受け継がれる文化を、次のかたちへ

田子には、鰹節や塩鰹といった、長い歴史を持つ食文化があります。松田さんの仕事は、それをそのまま残すだけではありません。発酵という技術を通して、新しいかたちへとつなげていくこと。そして、今の暮らしの中で使われる味へと変えていくこと。
時間をかけてつくられる味は、効率とは対極にあるものかもしれません。それでも、この土地で続いてきたやり方には、確かな理由があります。
田子漁港で育まれてきた鰹のうま味は、これからも、ゆっくりと受け継がれていきます。

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事業者紹介

田子丸
https://tagomaru.com/

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